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座敷 (アトピーの治療)

ゆっくり、あせらずに治療を続けましょう。

お月見したいな 対症療法で症状を抑えると、生活が楽になります。



1.どう治療するか

●江戸時代の病気観

杉浦日向子さんの対談集に、こんな一節がありました。「江戸時代の人 たちは、病気を未知の世界からのメッセージだと考えていた。病気の神 様に言い分があるから来ているのであって、それを聞こうともしないで追 い返せば暴れるに決まっている。だから子どもが疱瘡になると、お供え をして疱瘡の神様の言い分を聞こうとする。そして命だけはお助け下さ るようにとお願いした」。

迷信深いと笑うなかれ、私は素晴らしいと思います。現代人は医学の進 歩と引き換えに、病気や死との上手なつきあい方を忘れてしまったよう です。病気とは「行き詰まり」であり、そのメッセージを汲み取ることで真 に癒されるのでしょう。

●完治幻想を捨てよう

中世ヨーロッパの医師には「つねに元気づけ、しばしば苦痛を取り除 き、時には治癒に至らしめる」との金言が伝わっていたそうです。意地 悪な見方をすれば、昔は治癒させられないので元気づけるくらいしかや ることがなかった、とも言えるでしょう。
しかし私は、現代にこそ金言として通用して欲しいと思います。ご存知の ように近代医学は目ざましい発展をとげました。病原菌の発見やワクチ ン、抗生物質などの登場でによって結核やペストなど、恐ろしい伝染病 はほぼ克服されました。また外科手術も発達して、たくさんの人命が救 われるようになりました。

人体を精密な機械のように扱い、不具合を取り除いて治癒をもたらすの が近代医学と言えるでしょう。その恩恵があまりにも大きかったために、 いつのまにか中世の金言は忘れ去られてしまいました。日本にもその 近代医学が導入されて、疱瘡の神様はとうに出番がなくなりました。 その代わり、「病気は特効薬や手術によってきれいに治る」という完治 幻想が人々の間に広まりました。そして現代の医学は臓器移植や遺伝 子治療の領域まで踏み込んでいます。しかし現在でさえ、メカニズムが 不明な病気が実に多いことを忘れてはなりません。アトピーもその一例 であって、特効薬はないのです。

人々を苦しめる病気も、特効薬のある伝染病から「成人病」や「生活習 慣病」が中心になってきました。癌や高血圧、糖尿病などの病気、 そし てアトピーも 一発で完治することは期待できません。ライフスタイルや 心理面への配慮や、病気とのつきあい方が重要になってきます。
しかし病気は嫌なものですから、私たちはなかなか完治幻想を放棄でき ないのです。そうかと言って、完治幻想を抱いたまま受診すると、「常に 治癒を求めるが、しばしば苦痛を与えられ、時には元気づけられる」こと にもなりかねません。

●どう治療するか

では、どのようにアトピーを治療してゆけば良いのか。
「病気が治る時は、病気であることを忘れた時。そうなるまでは、気長に 治療していこうと思います」と言っていた患者さんがいました。こんな感じ が良いのではないかと思います。
まず「アトピーだから、〜をしなくてはならない」とか、「アトピーだから、 〜をしてはいけない」ということが、なるべく少ない方が良いですよね。 アトピーの治療に明け暮れるようでは、ストレスも大きいはずです。

対症療法が必要ならば、有効なものを選択するべきです。皮疹を確実 に軽快させられるのは、今のところステロイド外用剤と免疫抑制剤 (プロトピック:顔・首用)しかありません。作用のないものをいくら塗っても良くなる はずもないし、ますますアトピーが難病のように思われてきて落ち込む だけです。
「ステロイドを使いたくない」と言う人には、消炎剤の入った軟膏が処方 されることが多いと思いますが、炎症を抑える力はステロイドに比べてご く弱い上に、接触皮膚炎(かぶれ)を起こすこともあるので、必ずしも良 い選択とは言えないようです。「ステロイドが入っていないから安心」な 塗り薬を「いくら塗っても治らない」ことになります。それから怪しげな民 間療法に引っかかって、被害をこうむるケースも多いのです。

ステロイドについては後ほど詳しく述べますが、正しい使い方をすれば 怖がる必要はないと思います。むろんステロイドで皮疹がきれいになっ ても、薬で抑えているだけですから、「治った」ことにはなりません。しか しまず症状をコントロールしないと、生活を整えたり、成長を待つゆとり がなかなか出てこないと思います。


仕切

2.子どものアトピー

●子どもがアトピーと思ったら

子どもがアトピーかもしれないと思ったら、まず受診しましょう。かかりつ けの小児科の先生がいるならそちらでも良いし、皮膚科でも良いでしょ う。乳児のアトピーは生後2〜3ヶ月から出てくると言われていますが、 この時期は脂漏性皮膚炎(いわゆる乳児湿疹)との区別が難しいようで す。また幼児期以降も、アトピーとの鑑別が必要な病気はいくつかあり ます。
とにかく素人判断でアトピーと決めつけて街の薬局に頼ったり、湯治に通 ったり、アトピーグッズに手を出すのが一番良くありません。


●小児科か皮膚科か

子どものアトピーを治療するのは、小児科が良いのでしょうか、それとも 皮膚科でしょうか。迷われる方もいらっしゃると思うので、参考になりそう なことを述べます。もちろん小児科医にも皮膚科医にも色々な人がいる ので、あくまで一般論です。
小児科では、アトピーを食物アレルギーとして捉える傾向が強いようで す。アレルゲンの検査をして(RAST)、アレルゲンを含んだ食品(いわゆ る三大アレルゲンの大豆、卵、牛乳など)を除去する指導が広く行われ ていました。しかしあまりに厳しい除去食は、子どもの成長を妨げること から、反省期にあるようです。
皮膚科ではアトピーをアレルギー反応のみで説明しようとせず、皮膚の バリア機能からアプローチします。ステロイド外用剤によって症状をコント ロールして、バリア機能の発達や回復を待つという考え方が一般的なよ うです。
どちらが良いとは、いちがいに言えません。小児科の利点は乳児期から 青年期まで、子どもの心身の成長を見守ってもらえることです。また医者 通いはけっこう大変なことなので、他の病気も一緒に診てもらえるのは 親にとってはありがたいことでしょう。皮膚科のメリットは、やはり皮膚を 専門に診ているだけに経験が豊富であることでしょう。


●親の心構え

お子さんがアトピーと診断されたら、以下のような心構えでのぞんでいく ことをお勧めします。

1.不安に思わない
まず、うろたえない。これが大事です。アトピーはすぐには治りませんが、 「治らない病気」でも「恐ろしい病気」でもありません。またアトピーは遺伝 病でもありません。遺伝性の疾患は、だいたいは何千人に一人などの稀 な発病率ですから、アトピーのようなごくありふれた病気にはあてはまり ません。
「この子は治るんだろうか」とか、「学校でいじめられたら」などと不安に 思っていても、何も解決しません。いま必要なことは何かを見きわめて、 一つずつこなしていきましょう。そうすることで不安はなくなっていきます。
2.孤立しない
お母さんが一人で抱え込んで頑張っていくと、どうしても心理的に孤立し ていきます。アトピーに限らず、子どもに病気や障害があるとそうなりが ちなのですが、お母さんのためにも子どものためにも良くありません。 どのように対処すれば良いのかを学び、家族(特に夫、ですね)に理解し てもらい、協力してもらいましょう。
医療機関などでアトピー教室が開かれていたり、あるいは自助グループ があれば、参加してみるのも良いでしょう。ただし患者団体を装って「ス テロイドの恐怖」を植えつけ、「民間療法」に引き入れる業者(温泉の宅 配など)もあるので、注意が必要です。

3.振り回されない
子どもがアトピーだと、周りの人が色々なことを言ってくるものです。親戚 や友人はもとより、見ず知らずの他人までアドバイスをしてくれます。中 には確かな知識もあるでしょうが、だれも裏目に出た時に責任を取ってく れるわけではありません。それに子どもの状態は、お母さんが一番よく 分かっているはずです。相手の親切心を傷つけない程度に聞き流して、 自分で確かな知識を身につけるようにしましょう。

4.余計な物に手を出さない
「余計な物」とは売薬、民間療法、アトピーグッズです。まず売薬のぬり 薬は、使わないことです。特にステロイド外用剤は使い方に注意が必要 ですが、街の薬局で応対してくれる人は薬剤師とは限りません。ステロイ ドが含まれていない軟膏やクリームでも、接触皮膚炎(かぶれ)を起こす 可能性はあります。外用剤は医師に処方してもらって、経過観察のもと で使うべきでしょう。
いわゆる民間療法(商品化されている物)や、アトピーグッズ(アトピーに 良いとうたっている商品)は、やめておきましょう。お金と時間と労力を使 い果たし、消耗するのが落ちです。大変に残念なことですが、親の不安 につけこんで、あるいは不安をあおって、アトピーでひと儲けしようとする 人たちが沢山いるのです。


仕切

3.ステロイド外用剤

●ステロイド外用剤とは

ステロイド外用剤は、アトピー性皮膚炎の治療に広く用いられています。 しかし副作用による被害をめぐって裁判が起きて、マスコミで取り上げら れてからは、ステロイドを拒否する患者さんと皮膚科医の間で押問答に なることも珍しくないようです。
ステロイドはご存知のように副腎皮質ホルモンを化学的に合成したもの で、医薬品に用いられています(内服薬、注射薬、吸入薬、外用剤)。
作用としては炎症を抑える働きが強く、免疫の働きを抑えます。内服薬 は膠原病などの難病の治療に有効な反面、副作用も強く(顔が丸くなる 「ムーン・フェイス」など)、急に中止したり減量したりすると「リバウンド」と 呼ばれる現象が起きます。

ステロイド外用剤は(以下、「ス外」と記します)、副腎皮質ホルモンの成 分を基剤(ワセリン又はクリーム)に混ぜた塗り薬です。効き目のランク が5段階に分けられていて、ランクごとに様々な種類のものがあります。 ス外はアトピー性皮膚炎の他にも、皮膚病の治療には広く使われていま す。
軟膏やクリームなど、外用の場合はよほど強力なものを大量に使いつづ けない限り、内服と同じような副作用は起こらないと言われています。近 ごろ話題になることが多い「プロトピック軟膏」は、免疫抑制剤を軟膏にし たもので、ス外ではありません。


●ステロイド外用剤の種類

チューブに入っているものは、ラベルやコードを調べれば、ス外の名前 が判ります。もっとも今は薬袋に、写真入りで薬の名前と効能を印刷して くれるような病院が増えているので、そんな手間は要らなくなってきまし た。判らないのは、病院が独自にス外を保湿クリームなどで薄めて、プラ スチック容器に詰めてくれるような場合です。

以下に、アトピーの治療によく使われるス外の商品名を列挙します。
(竹内和彦著 「アトピー性皮膚炎克服への近道」 小学館 から引用)


【おもなステロイド外用剤と強さのランク】

---------------- ≪ 最 強 strongest ≫ --------------------
デルモベート、ジフラール、ダイアコート
------------------------------------------------------------

------------- ≪ 非常に強い very strong ≫ ----------------
トプシム、シマロン、リンデロン−DP、テクスメテン、ネリゾナ、
ビスダーf、アドコルチン、パンデル、マイザー、メサデルム、ブデソン、
フルメタ、アンテベート
------------------------------------------------------------

------------------ ≪ 強 い  strong ≫ --------------------
ベトネベート、リンデロン−V、トクダーム、フルコート、フルゾン、
フルベアン、プロパデルム、ドレニゾン、リドメックス、ザルックス、
ボアラ、エクラー
------------------------------------------------------------

--------------- ≪ おだやか  mild ≫ ----------------------
ケナコルト−A、レダコート、ロコルテン、ロコイド、キンダベート、アルメタ
------------------------------------------------------------

------------------- ≪ 弱 い  weak ≫ ---------------------
プレドニン、ヴェリダームメド、ロールアセテート、コルテス、デカドロン
------------------------------------------------------------

---------------【 抗生物質入りの ステロイド 】---------------
テラ・コートリル、ヴェリダーム、ネオ・メドロールアセテート、
ネオ・メドロールEE、フルコートF、ベトネベートN、リンデロン−VG、
ケナコルト−AG、テラコー
------------------------------------------------------------


●ステロイド外用剤の副作用

ス外の副作用について、一般向けの本から引用して紹介します。皮膚科 では、このような説明をされることが多いと思います。

-------------【副腎皮質ホルモン外用剤の副作用】-------------
従来、副腎皮質ホルモンは内服の場合は、種々の重大な副作用が問題 になったのですが、外用の場合は、心配ないといわれていました。しかし 最近は、強力な外用剤が開発されるにつれ、外用でも副作用を全く無視 することはできなくなりました。
最も問題になるのが、前に説明した、酒さ様皮膚炎ですが、その他に も、長期間、同じ場所に強力な外用剤を連用していると、皮膚が薄くな り、血管が拡張し、皮下出血をおこしやすくなったり、毛が濃くなったり、 ニキビができたり、オデキや水虫、カンジダ症になりやすくなるなどの 副作用がみられるようになります。
------------------------------------------------------------
(「皮膚病の症状と治療」中内洋一著、梧桐書院 より)


酒さ様皮膚炎とは、顔が赤くなる皮膚病「酒さ」(しゅさ:この「さ」は、
「査皮」をひとつにした文字です)に似た症状です。


ス外は塗る場所によって、副作用の出方が違ってきます。肛門などの粘 膜はもっとも吸収される部位ですが、顔や首もよく吸収されるので、副作 用が出やすくなります。「身体用」と「顔用」に分けてス外が処方される ことが多いのは、そのためです。「顔用」のス外は「身体用」よりも、弱 いランクになります。

ス外の副作用が問題になる前は、患者さんにしても、医療機関にして も、無頓着な扱いをしたために、副作用(酒さ様皮膚炎など)が見られた ようです。「身体用」の方がよく効くからと顔に塗ったり、売薬のス外( 強いランクの物まで医師の処方なしで買えるので、問題です)を顔に塗っ たりする例があったようです。
特に女性の場合はス外を塗ると化粧のりが良くなるようで、私が会った 人でも下地作りに常用していた人がいました。

ス外は薬ですから、他の薬と同様に副作用は避けられません。しかし安 全と思われている非ステロイド系の外用剤(消炎鎮痛剤を配合したもの) にしても、刺激が強くて接触皮膚炎を起こすことがあり、おまけに抗炎症 作用がス外に比べてずっと弱いので、こじらせることがあるそうです。
そう言えば非ステロイド系の軟膏(アンダーム)は、私の息子の時はちっ とも効きませんでした。「これはステロイドが入っていないから安全です」 と出されて喜んでいたのですが、塗っても塗っても良くなるどころか、 段々にひどくなりました。「よほどひどいのかな」と不安にもなりましたが、 今考えればその時の症状を抑える力ない薬が処方されていただけの話 でした。

またアトピーの人は白内障になることがあり、ス外の副作用のように言 われることもあります。しかし実際は「ス外の副作用ではない」というの が、眼科医や皮膚科医の一般的な認識になっているうです。私が会った 患者さんでも白内障になった人たちは、急にス外を止めたために、顔を 叩いたり掻いたりして白内障に至ったと思われるケースでした。


●「リバウンド」について

ス外を塗り続けていた人が、急に外用を止めると、症状が噴き出すよう に悪化することがあります。ス外を塗り始める前よりも悪化することも多 く、「ス外の副作用のためにこうなった」と考える人もいるようです。 このような現象を「リバウンド」と呼んで、ス外の問題点であると思ってい る人は少なくありません。しかし皮膚科医は「リバウンドはステロイドの内 服に起こる現象であって、ス外では起こらない」と考えている人が一般的 でしょう。

膠原病などの治療のためにステロイド剤を内服すると、副腎皮質ホルモ ンの血中濃度が高くなり、症状が抑えられますが、副腎はホルモンの分 泌を減らしてゆきます。そのような状態で急にステロイド剤の内服を止め てしまうと、副腎皮質のホルモンが分泌されていませんから、症状が服 用前よりもひどくなってしまうのです。これがリバウンドです。

しかし外用剤の場合は、血中に吸収されるのが微量のために、よほど 強力なランクのものを大量に長期間(1日10〜20gを数ヶ月間)使わない と、副腎の機能は影響を受けないそうです。
つまり、ス外では「リバウンド」は起こり得ないことになります。金沢大学 の竹原和彦先生は、民間療法などの「アトピービジネス」が、内服にしか 生じないはずのリバウンドを、「リバウンドを起こすような薬を軟膏にして いる」と話をすりかえて、ス外への恐怖心をあおっていると指摘していま す。

ではス外を止めると塗る前よりも皮疹がひどくなる現象を、どう解釈した らよいのでしょうか。ス外は炎症やかゆみを抑える働きがあるので、塗 ると皮疹が消えて楽になっていきます。しかし皮疹の素である掻きぐせ や、低下した皮膚のバリア機能、アレルギー反応、湿疹化しやすい体 質などはそのままになっているので、ス外を止めると皮疹がまた出て来 るのでしょう。
そして皮疹の悪化でイライラしたり落ち込んだりで、皮膚を掻き壊してし まい、ス外を塗る前よりもひどくなる、という現象が推測されます。
ス外はあくまで対症療法なので、症状のコントロールはできますが、根本 的な改善をもたらすわけではありません。生活を整えたり、成長や精神 的な安定が得られたり、あるいは自然治癒力が働いたりして根本が良く ならないと、止めた時に症状が出て来ます。つまりス外の効果を見て 「治った」ように思ってしまう、というのが「ス外のリバウンド」の本態であ ると考えられます。


●ス外慎重派の意見

皮膚科医の中にはス外の使用に否定的であったり、脱ステロイドを唱え ている人もいます。その中にはアトピービジネス的な医師もいるようです が、実証的な臨床経験からス外の使用には慎重になっている医師もい るのです。
青木敏之先生(皮膚科アレルギー科クリニックかゆみ研究所)は著書 の中で、「ス外は第一選択の治療薬ではないが、ス外を絶対に拒否す るのは損」と述べています。
詳しくは著書を参照していただくとして、環境対策(皮膚刺激対策、黄色 ブドウ球菌対策、アレルギー対策、かゆみ対策)を行ない、ステロイドを 含まない古典的な外用薬(亜鉛華軟膏、カチリ、カプサイシン軟膏)を用 いて、それでも効果がない場合にはステロイドを使うという考え方のよう です。ただし、環境対策はその一つ一つが手間暇のかかることです。十 分に理解をして、労力を費やす覚悟でとりかかる必要があると思いまし た。

青木先生が「ステロイド治療の適応と不適応」をまとめておられるので、 紹介します。

------------------------------------------------------------
1.ステロイドの使用を控えるべき状態
 a.コリン性そう痒の状態
 b.もっぱら掻くことによって悪化する症例
 c.習慣性掻はの状態
 d.季節の消長がはっきりしている症例

2.ステロイドを注意深く減らしていくべき状態
 a.ステロイドを強めてもまったく反応しない皮膚炎
 b.長期大量のステロイドの使用により到達した皮膚の最終段階

3.ステロイドを注意しながら使用すべき状態
 a.乳児期・幼児期の湿疹
 b.活動性皮疹があまりにも広範につづくとき

4.ステロイドの使用を変更すべきでない状態
  ステロイドの継続使用により小康を得ているとき

5.積極的にステロイドを使う状態
 a.急速な発症または症状の拡大する恐れのあるとき
 b.改善の見込みのない状態が長くつづくとき
 c.本人ばかりでなく家族の健康な生活まで阻害されるとき
 d.皮疹の程度が強くても部分的であるとき
 e.手の湿疹
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(青木敏之著「アトピー性皮膚炎を治す」日本評論社,1999 より
            なおa.b.c.……は管理人がつけました)

 同書の中から注をつけると、
1a.:汗をかくときに痒みが起こる状態。夏に良くなり冬に悪化
1c.:手がつねにどこかを掻いている
2a.:かぶれ、感染、掻きすぎなどによるもの
2b.:この頃はさすがになくなったが、かつてはいた
 とのことです。


●ス外の間歇使用

私が勤務していた星の丘クリニックでは、ス外を1週間に何日塗るか、院 長が患者さんに指示をしていました。ただし皮疹を効果的に抑えるために、強い ランクのものでした。よほどひどい状態だと週に4日塗って、3 日休みます。それで皮疹が落ち着いてきたら、段々に減らしていくやり方でした。 入院患者さんの例では、週に1日程度の塗布で退院できる人が多く、ス 外を切って退院する人もいました。

このような使い方には、副作用の心配を減らしたり、皮疹の程度を患者 さんが把握できる(例えば、ス外を切っている間に塗る日が近づくと痒く なるとか)メリットがあります。良好な状態になるまでは、週に何日塗る かを院長が診察して指示を出しています。
星の丘クリニックを開院した時には、ス外を全く使わないで治療 していたそうです。その時には私はまだ勤務していなかったので、当時 の様子を聞くと、患者さんも職員もずいぶん苦労したようです。皮疹を抑 えて患者さんの心理的・経済的な負担を減らし、生活の質を高めるため にス外を使うようになったそうです。


●ス外の使い方

ス外の使い方で、気をつけなくてはいけない点は、どのようなことでしょ うか。まずはよく知られていることですが、要注意の部位として顔と首が 上げられます。吸収率が高く副作用が出やすくなります。身体用と違う 強さのス外が処方されている場合は、必ずそれを使うようにします。

次に良くない使い方をあげます。

・不潔な皮膚に塗る
入浴は一番風呂に入り、シャワーをかけて上がる。きれいなタオルで拭 いて、ス外を塗る手も清潔にして塗るのがベスト。不潔な皮膚に塗ると、 ばい菌が繁殖して良くないそうです。これは息子がかかっていた先生が 教えてくれました。

・怖がって塗る
ほんの少しつけて、こすって伸ばすような塗り方では量が不足して効き ません。

・効かないス外を塗る
皮疹に対して弱過ぎるランクのものや、ス外を薄めた過ぎたものを塗っても、充分な効果 は得られません。「塗っても塗っても治らない」状況になります。

・皮疹のない所に塗る
予防的に塗っても意味がありませんし、副作用が出やすくなります。


●ス外に治せないこと

ス外は正しく使えば、皮疹やかゆみを抑えるのに有効な手立てです。 しかし、いかにステロイドでも治せないのが「掻きぐせ」なのです。成人の アトピーの場合で、難治化してしまっている人は、ほとんどが掻きぐせに よるものと思われます。掻くことでストレスを発散したり快感に浸るのは、 自分の身体を相手にする構造ができあがってしまっていて、一種の引き こもりではないかと考えます。
ステロイドで症状をコントロールしてゆく一方で、日々の生活を見直した り、ストレス・マネージメントを実践したり、家族との関係を変えたり、場合 によっては自分の性格を変えて行くようにすることで、本当の意味での 回復が期待できます。


仕切

4.アトピーの入院治療

●アトピーの入院治療

私が勤務していた星の丘クリニックは、入院の設備がありました。ご存知 のように皮膚科では通院治療が一般的であり、大きな総合病院でも皮 膚科だけの病棟を持っている所は少ないと思います。
たいがいは泌尿器科や耳鼻咽喉科など、入院患者が少ない診療科と混 合で、アトピーよりは皮膚科の難病(悪性腫瘍の他、膿疱性乾癬、強皮 症、天疱瘡など、一般には耳にしない病気が沢山あります)の方が多い と思われます。

精神的に落ち込んでひきこもったり、ステロイドを一気に止めて症状がひ どくなったような時は、自宅で療養していても回復するまでがつらいし、ど うしても時間がかかります。そのような時には入院治療で悪循環を断ち 切り、いったん症状を良くして維持していく方が良いのです。またストレス の多い日常から離れてみたり、生活のスタイルを見直す機会として、入 院した方が良い場合もあります。
アトピーの入院治療を行っている病院は、数としては少ないのですが、つ らい毎日を過ごしている方は入院を考えてみても良いのではないでしょう か。


●星の丘クリニックの入院生活

他の病院のことはわかりませんので、私の勤務先ではどのような入院治 療をしていたのか、ご紹介します。
星の丘クリニックは、岩手県は盛岡市から30kmほど南下した「石鳥谷 町」の、山ぎわに位置しています。アトピーの治療を主たる目的として 1995年に開設、「星の丘」の由来は星が美しいからだそうです。
「病院」ではなく「医院」なので、ベッドは19床、4人部屋が3室の他は 個室になっていました。周りは自然がたっぷりで、空気がきれいな 所です。

院長の岡部俊一は皮膚科医ですが、漢方を学び心理的な側面にも関心 を持っていました。アトピーに良さそうなことは、何でもやっていこうという姿 勢でした。「入院」と聞くと診察や検査、処置を受ければ、あとは食事をして おとなしく寝ている生活が想像されますが、星の丘の入院生活はかなり 違っていました。
午前中は診察を受けたり、看護婦さんから処置をしてもらいますが、こ れはどこでも同じでしょう。外用剤はステロイドを週に3日とか、2日と か、症状を見て減らして行きます。ステロイドを切って退院する人も、 少なくありませんでした。どうしてもステロイドを使いたくないと言う人には、 使わないで治療をしていました。

星の丘の患者さんは、日に一度は漢方薬を煎じていました。と言っても一回分 が紙袋に入っているし、煎じ器は自動タイマーで止まるので、難しくはあ りません。煎じ薬は濃縮エキスのような物ですから、臭いは強烈で凄味 のある色をしています。そして昼食前に、30分間のストレッチ体操があり ました。午後は一日一万三千歩を目標に散歩に出かけるよう、病院では 勧めていました。

食事は玄米食が基本で、新鮮で安全な食材で作られ、調味料も吟味 されていましkた。希望すれば管理栄養士から栄養指導を受けたり、二週 間かけての超少食療法も受けられました。また温泉(単純アルカリ泉、ま じりっけなしの濃いやつ)が引かれていて、湯治ができるようになってい ました。このお湯は、肌がツルツルになると好評でした。

そしてこれは私の担当でしたが、カウンセリングを受けることができました。 私はまず一度お会いして、心理テストを通して見えてきたことを伝えたり、 お話を聴いていました。そして自分の場合はどんなことがストレスになりやすい のか、考えるきっかけにしてもらっていました。
その後は希望によって、カウンセリングを続けていました。


●入院で癒される

さて、星の丘クリニックの入院治療をかいつまんでご紹介しました。し かし私は治療のプログラム以外の部分でも、患者さんが癒されていた ような気がします。
一つはストレスの多い日常生活から離れて、自然からも元気をもらい、 休養する効果があったのでしょう。もう一つは、同じ病気をもった仲間と の出会いが大きな要素だと思います。

入院するとアトピーの人がほとんどですから、症状がどんなにひどくて も、人目を気にしないで良いのです。そしてお互いの体験を話したり、 一緒に散歩やスポーツをしたり、遊んだりするようになります。入院中 に仲の良い友達になって、退院してからもつきあいの続く人たちも多い ようでした。
子どもの頃からアトピーだった人たちは、同世代の集団の中で傷ついて きたようです。症状が顔に出るとからかわれたり、いじめられたりするの はもちろんですが、何もされなくても気後れして対等につきあえないと か、周りを気にしてしまいがちです。それが同世代の集団の中で癒され ていく姿を見ると、傷を作るのも癒すのも人との出会いだなあ、と思 っていました。



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