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1.成人アトピーとの出会い
●星の丘クリニックに来て
星の丘クリニックに赴任したのは、3年前の春でした。私はそれまで精神科の病院で働い
ていましたので、皮膚科の患者さんに関わるのは初めてでした。どのような形で心理的な
援助をしていったら良いのか、患者さんに関わりながら学んでいく必要がありました。入院
患者さんについて感じていたことを、思い返してみましょう。
まず感じたのは、子どもよりも症状がはるかにひどい人が多いことでした。その症状もさる
ことながら、私が印象づけられたのは「かゆみと闘っている人たち」が患者さんの中にいた
ことでした。とにかく猛烈にかゆくてかゆくて、どうしようもないのです。そして皮膚を掻き壊
し、精神的にも落ち込んでしまう。
またかゆみや掻き方も、子どもとは次元が違うように感じました。掻く時に磨かれるためか、
爪がピカピカの人がいます。中にはえぐるようにして掻きまくり、皮膚がめくれて肉が出て
いる人がいたり、絶えずボリボリ掻いている人もいました。こうなるといくら治療しても、
一晩ですっかり悪くなってしまいます。
性格的にはまじめで、気持の優しい人が多いように感じました。ただしそれは表面のこと
で、内面には激しい感情の固まりや、心の傷を抱えているようです。また内にこもっていて、
人前で自分の気持をオープンにすることが難しい人も、多いようです。自分が傷つくのを恐
れながら、皮膚を傷つけているようにも見えました。
また学校や仕事をあきらめて、辞めてくる人もいました。家にずっと引きこもって昼夜逆転の
生活を送ったり、友人とのつきあいも疎遠になってしまう人もあります。特にステロイドをぷ
っつりやめてしまうと症状が一気に噴き出して、半年も一年も苦しい日々を送ることがある
ようです。
これらは私の印象であって、一概に言えることではありません。一人一人の人柄も、歩ん
できた歴史も違うはずです。しかし成人アトピーは皮膚だけの問題ではないこと、心の面か
ら癒されてゆく可能性があることは、どの人についても言えることでした。
●成人アトピーとは
かつて、アトピーは子どもの病気とされてきました。お母さん方は「これはアトピーで中学
生になれば良くなります」と医師に言われて、「大した病気でなくて良かった」と喜んでい
たようです。アトピーの蔓延やステロイドで騒がれる前でしたし、また感染する皮膚病より
は良い、ということもあったのでしょう。 しかし今や思春期を過ぎても苦しんでいる患者さ
んが沢山いて、アトピーは「子どもの病気」ではなくなりました。成人アトピーの発症と経過
には、以下の3タイプがあります。
(a)子どものアトピーからずっと引き続いているもの
(b)子どものアトピーが治り、青年期以降に再発するもの
(c)青年期以降になって、初めてアトピーの症状が出るもの
皮膚に現れる症状も、成人アトピーは子どものアトピーと異なってきます。子どもはひじの
内側やひざの裏側など、汗がたまりやすい部分に集中しますが、成人では全身に広がっ
て顔にも出るようになります。また症状自体も、苔癬化(ツブツブ)、赤み、色素沈着、赤褐
色のイボ状になる「痒疹」など、多様になってきます。
●人生の壁
そして成人アトピーは、その人の生き方に深く関わっているように思われます。皮膚のトラ
ブルとして単純に片付けられるのは、一部の軽症の人でしょう。重症の患者さんにとって
は、アトピーは人生の壁として立ちはだかります。壁でなければ、汚点、恥部、敵、悪夢
……。振り払っても、振り払っても、くっついてきます。
「アトピーさえなければ、何だってできたのに」という言葉を、これまで何人の患者さんから
聴いたでしょうか。入院していたある女性は、こんな話を聴かせてくれました。「ほんと、こ
んな病気ってあるんでしょうかね。白血病とか癌だったら、みんなに同情してもらえる。アト
ピーなんて別に死ぬわけじゃないし、病気のうちじゃないって言われる。でもかゆくてかゆ
くて夜は眠れないし、働くこともできない。みっともなくて、友だちとも会えない。街も歩けな
いんです」。
彼女にとってアトピーとは生きることも死ぬこともできない、全く恨めしい境遇
だったと思います。しかし一年ほどしてクリニックに顔を見せに来てくれた時には、すっかり
きれいになっていました。内側から輝いている表情を見て、私は彼女が心の何か ― それ
はうかがいしれませんが ― を乗り越えたのだと思いました。
●読者の体験から
以下に紹介するのは、千葉県の yumiko さん(22才)からのメールです。簡潔な文章で成
人アトピーの体験をよく表現されていると思います。
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(前略)私は俗に言う、成人期のアトピーです。20歳を境にして少しずつ徴候が現れ、21
歳の時に顔が腫れ上がり、顔面ひび割れ状態になり、外を歩けない状態になってしまいま
した。それからというもの、仕事は辞めただ家に閉じこもるという生活が続き、医者にも行か
ず体にいいということを信じて続けてきましたが、一向に良くならず、自殺してしまいたい……
と悩んだ時期もありました。
今は医者に通いゆっくり、ゆっくりと回復にむかっているようです。今は仕事をしていますが、
やはり顔が気になり休みたいなーと思うこともしょっちゅうです。でも、アトピーになって一
番ショックだったのは、性格までもが変わってしまったことです。今までは友達と遊んだり、
喋ったりすることが大好きだったのにアトピーを機に家に閉じこもり、友達にあっても、見つ
からないように、と避けて歩く毎日でした。ですが、そんな時私を支えてくれたのは、家族
や恋人でした。一番辛い時に、支えがなかったら……と思うとぞっとします。(後略)
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アトピーは「死ぬような病気ではないけど、死にたくなる病気」なのかもしれません。また性
格が変わってしまったと思うのは、本当にショックなことだと思います。
2.掻くことについて
●ストレスで悪化するのは
ストレスでアトピーが悪化するのは、多くの方が実感していると思います。では、なぜストレ
スで悪化するのでしょうか。ストレスによって免疫システムが影響されたり、皮膚のバリア
機能が低下することも考えられますが、まず何よりもストレスで「掻く」ことが悪化につなが
るように思います。症状のひどい人でも、背中の手が届かない部分だけはきれいになって
いるそうです。
●子どもの掻き方、大人の掻き方
私が勤務しているクリニックは入院施設があって、時には小学生くらいの子どもが入院しま
す。私の長男もアトピーだったので、子どもが掻いている様子はよく目にしました。子どもの
掻き方と大人の掻き方は、どうも違うように思うのです。子どもは汗をかくとか、暑いとか、あ
るいは叱られた時とか、掻く時がはっきりしているし、筋肉までえぐるようなひどい掻き壊しも
ありません。また子どもは好きなテレビを見たりして楽しめる時には、まず掻いていません。
しかし大人の患者さんは漫然と掻いていたり、四六時中掻いていたり、ひどく掻き壊してし
まうこともよくあります。むろん大人ともなれば掻くとアトピーが悪くなるのは、百も承知です。
掻いてしまった後で、気持が落ち込んでしまうこともよくあるようです。だけど、どうにも「掻か
ずにはいられない」のです。
皮膚科医の小林美咲氏は、青年期のアトピー患者を対象にした調査をもとに論文を書かれ
ています。彼らの掻破行動(掻くこと)は情緒的な緊張や興奮を解消する目的(気が紛れる、
気持の切り替えがつく、ほっとするなど)を持っていて、単にかゆみを解消するためのもので
はなく、嗜癖(しへき=生活の障害になっているが、ハマって抜けられない)と呼べる状態で
あると述べています。
私自身は嗜癖ととらえるかどうかは、保留にしておきます。私は成人アトピーの人の掻き壊
しを、「行動化としての掻破」として考えて来ました。自己の感情を言葉にしないで、行動に
よって情緒面の緊張を解消することを、心理学では行動化と呼んでいます。これは意識して
行なうものではなく、私たちは気づかずに行動化しているわけです。
●掻破行動のモデル
掻破行動をどう理解するか、私の考えを下の図にまとめてみました。
【掻破行動のモデル】
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[人間関係・人生の問題] ←――――――――――
| |
| |
↓ |
[自律神経]←[ス ト レ ス]→[掻く]→[皮膚の損傷]|
[系の反応] ↑↑ | ↑ ↓ |
↓ ◎心身症◎|| |[不安] ■掻破■ [刺激の侵入]|
[身体症状] || | ↑ ↓ |
↓ || |[悪化]←[掻く]←―[かゆみ]|
[不安]――――― | | |
| | |
| ↓ |
[脳 神 経]←――――[感覚・感情・思考]→[表現行動]―
[系の反応] | ●受容・表出●
↓ ◆神経症◆ |
[精神症状] |
↓ |
[不安]――――――
------------------------------------------------------------
この図には、ストレスに対する4つの反応のパターンが含まれています。
この4つの他にも、例えばアルコールを飲むとか、無茶苦茶に働くとか、車で暴走するとか
色々なパターンがあるでしょう。成人アトピーの人が掻き壊してしまう時には、掻破パターン
が機能していると考えるのですが、ここでは比較のために心身症と神経症もあげています。
●受容・表出パターン●
[人間関係・人生の問題]→[ストレス]→[感覚・感情・思考]→[表現行動]
→[人間関係・人生の問題]
「感覚・感情・思考」は、自己の内側の言葉としてとらえていただければ良いと思います。こ
のパターンはストレスによって引き起こされた情緒的な動きをキャッチして(言語化)、外に
向けて表現します。他のパターンのように病気には結びつかないのですが、常に適応的で
あるとは限りません。表現の仕方が悪かったりすると、周囲とうまくいかなくなってしまうこ
ともあり得ます。
■掻破パターン■
[人間関係・人生の問題]→[ストレス]→[掻く]→[皮膚の損傷]→[刺激の侵入]
→[かゆみ]→[掻く]→[悪化]→[不安]→[ストレス]
このパターンではストレスを受けた時に、それが言語化されずに皮膚を掻いてしまいます。
アトピーの人たちは自分の細やかな感情を表現したり、自己主張をしたりするのが、苦手な
人が多いようです。自分一人で我慢して、頑張ってしまうんですね。何気なく掻いていたの
が、傷つけられた部分から刺激が侵入して本格的にかゆくなり、掻き壊しにつながります。
◎心身症パターン◎
[人間関係・人生の問題]→[ストレス]→[自律神経系の反応]→[身体症状]
→[不安]→[ストレス]
やはりストレスが言語化されずに、自律神経系が反応して身体症状に出ます。例えば血圧
の上昇を招いて、高血圧につながります。
◆神経症パターン◆
[人間関係・人生の問題]→[ストレス]→[感覚・感情・思考]→[脳神経系の反応]
→[精神症状]→[不安]→[ストレス]
掻破パターンや心身症パターンと異なって、ストレスは言語化されます。しかし強い葛藤に
巻き込まれて、抜け出すのが難しくなってしまいます。
●フラノさんのメール
大阪のフラノさん(32才)から次のようなメールを頂きました。 いわゆる掻き癖を、よく表して
いると思いました。
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掻き方について、あまりにも当たっているのでおもわずお便りいたしました。嗜癖、というとこ
ろです。もっともなんです。止めたいのに止められない。自分自身に「掻けば、掻くほど、痒く
なる」。とか、「掻かない、触らない、取らない、毟らない」。など、訓示を唱えているのですが、
肌をさすったり、触れたりすることに始まり脳に強い意思でもって止めることの指令を出すま
で緩やかな掻き方から、激しさを増すまで掻き続けるのです。
仕事中などはほとんど掻かないのですが、家に帰ってきてほっとしたとき、服を着替えて締
め付けられるものから開放されたときなど無意識のうちに掻いて快感を味わっています。そ
れは、まさしく、嗜癖といわざるを得ません。仕事中であれば、電話で話しながら気がつけ
ば耳を触っていたり、考え事をしている時に手持ち無沙汰で掻いている(毟っている)ことが
多いのに気がつきます。
近頃、掻くことは、癖だと気がついていましたので、わざと他にくせをつけようとしているとこ
ろでした。特に、皮をむいたり、はがしたりするようなことが大好きなので、治りかけのかさ
ぶたなどは、恰好の状態なのです。ぱりぱりっと言う感じで治りかけの表皮を取る瞬間に快
感を覚えるのです。たとえ多少の痛みを伴うとしても。。。(さすがにじくじくしてしまうのには
抵抗がありますが)
きっと日々の暮らしに充たされないものがあるのでしょう。
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3.皮膚の意味
●皮膚の意味
皮膚とは何か、考えてみましょう。私たちがふだん意識している以上に、皮膚には色々な意
味があると思います。
(1)臓器としての皮膚
生理学的には、皮膚は表皮、真皮、皮下組織から構成された「臓器」です。また爪や毛髪
も皮膚が変化したものです。
(2)防護壁としての皮膚
外側の刺激から内側を守る。あるいは、内側のものが外側に出ないように押しとどめておく
働きがあります。心理的には自分と他者を隔てる境界であり、赤ちゃんが自分自身を認識
するのも、皮膚感覚を通してと思われます。
(3)感覚器官としての皮膚
触覚、圧覚、痛覚、温覚、冷覚を感じ取ります。
(4)排泄器官としての皮膚
汗を通して、塩分や老廃物を排出します。
(5)呼吸器としての皮膚
ミミズは100%、カエルは50%を皮膚呼吸に頼っていますが、哺乳類ではわずかな割合に
なります。
(6)情緒表現をする皮膚
「赤面」したり「顔面蒼白」になったり、冷や汗をかいたり、あるいは鳥肌が立ったりして情緒
を表現します。
(7)交流の場としての皮膚
皮膚を通しての交流は、赤ちゃんが抱っこされることから始まって、子どもの遊び、異性との
触れ合い、介護を受けるなど、生涯を通じてあります。
(8)パッケージとしての皮膚
日本語には「肌」という言葉がありますが、「人に見られる」、「人に見せる」皮膚です。「ガン
グロ」は下火になったようですが、日本人は「白いもち肌」を理想にすることが多かったようで
す。
●モノ化した皮膚
文明が進むにつれて皮膚は本来の意味を失い、「パッケージとしての皮膚」、言ってみれば
身体の包装紙としての皮膚が肥大化して来たように思われます。
医療が発達していない時代は、怪我をして皮膚を傷つけると、生命の危機にさらされること
もありました。また伝染病の兆候が皮膚に現れることも珍しいことではなく、昔の人は今より
もずっと「防護壁」として皮膚を認識してきたのではないでしょうか。
仕事も家事も手で行うから機械に頼る時代になり、また知的労働が多くなって、「触覚」の
意識が希薄になってきました。「寒い」とか「暑い」とか、感じる前に室温が整えられている
環境も増えてきました。また電話やファックス、メールなどの交信手段に頼るようになり、相
手の顔色を見ることも少なくなりました。
現代人にとって皮膚は、身体を見栄え良く包んでくれる包装紙であることが期待され、強迫
的なコントロールの対象となっているようです。誰もが若々しい張りのある、皺やシミのない
皮膚を目指していて、その人らしい年輪は価値を持ちません。皮膚を対象にした薬品、化粧
品、サービスの類は、うんざりするほどの種類があります。美容整形的な処置は、珍しいこ
とではなくなりましたし、人工皮膚も開発されているようです。皮膚は「貼り替え」可能な部
品にさえなりつつあります。
このように皮膚が美しい包装紙として機能するために、強迫的にコントロールされたり、部品
として扱われる現象を、私は「皮膚のモノ化」と呼んでいます。皮膚がモノ化してくると、皮膚
病になった人は劣等感を持ったり、病気を治すのに躍起になったします。アトピーの二次災
害を産みやすくなると、言えるでしょう。
ただし身体が強迫的なコントロールの対象になっているのは、昨今の健康食品やサプリメン
ト、ダイエットへの熱望などを見れば、何も皮膚に限ったことではありません。ごく普通に生
活している現代人が抱えている病理と言っても、過言ではないでしょう。皮膚は直に見えて、
触れて、いじることができるから、その対象として選ばれやすいのかもしれません。
●皮膚の人格化
その一方でアトピーや蕁麻疹の患者さんは、自分の皮膚を掻きむしって感情を発散させるこ
とがあるようです。「掻いてすっきりする」のは、本来は対人関係の中で味わっている怒りを、
自分の皮膚にぶつけているのかもしれません。この時、皮膚は怒りを受け止める対象として、
いわば人格化しているのです。
アトピーの皮疹が嫌で嫌でたまらない時、自分でも何でこんなに苦になるのか不思議な時も
あるかと思います。もしかしたら対人関係で味わっている悲しみや失望を皮膚に映し出して
いて、皮疹が辛く感じられるのかもしれません。皮膚は悲しみを受け止める対象として、人
格化されているのでしょう。
青年期のアトピーの患者さんにしばしば見られるのは、情緒表出の場が対人場面から自他
の境界である皮膚まで後退しており、皮膚が怒りや悲しみなどの感情を受け止める対象と
して人格化されている現象です。
それが極端になると、人と会うのがおっくうで外出しなくなったり、学校や仕事を辞めたり、
昼夜逆転の生活になったりすることがあります。客観的にはアトピーがひどくなくても、アト
ピーがものすごいプレッシャーになることがあります。このように、他人に関わるよりも自分
の身体を相手にして生活するような構造は、一種の引きこもりとも言えるでしょう。
●ありのままの自分を生きる
皮膚が自分の身体ではなくなっていって、モノ化したり人格化したりする現象が、アトピーの
人に見られると言ってもよいでしょう。自分の身体をモノ化したり、人格化するのではなく、与
えられた身体をそのままに生きることができれば、ずいぶんと楽になるのではないかと思う
のです。
背伸びしたり、自分をねじ曲げたり、閉じこもったりするのではなく、「ありのままの自分を生
きる」ことは、心身の健康度に深く関わっています。誰にとっても難しいことですが、アトピー
の人にとっては特に大事なことのように思えます。その鍵になるのは、おそらくは「健康な
自己愛」だと思います。
4.子どものアトピー
●「かゆみ」の意味
子どもがかゆみを訴えて、お母さんに身体を掻いてもらうのはよくあることです。場合によって
は何日間もお母さんを寝かせないほど、エスカレートすることもあります。これを純粋に「アレ
ルギーによって起きるかゆみ」と考えて、アレルゲンを除去しようと躍起になると、大変なこと
になります。
昼間はダニ対策や手間のかかる除去食を作ったりで忙しいのに、夜になって「かゆい、かゆ
い」と子どもに泣かれては、疲れ果ててしまいます。「こんなに頑張っているのに、ちっとも良
くならない」と気持も追い詰められて、極端な場合にはパニック状態になることがあります。
かゆみは痛みと同じように、心理的な要因が深く関与していると思われます。「健康な皮膚
の人に、催眠を用いてかゆみを生じさせた研究がある」ということですから、心理的な要因だ
けでもかゆみが発生する可能性があるわけです。たいていの場合はかゆみを発生させる身
体的な要因がまずあって、心理的な要因がかゆみを猛烈にしたり穏やかにしたりすると思
われます。
たとえば蚊に刺されても注意が向いて気になり出すとかゆくなるし、おしゃべりに夢中な時
はかゆみを感じないこともあります。ですから、どのような心理的要因がかゆみを強くしてい
るのか、探ってみることは大きな意味があるのです。
まず子どもの欲求が満たされているのかどうか、考えてみましょう。衣食にこと欠くのは今の
日本ではあまり考えられませんが、情緒的に満たされているかどうかは別問題です。子ども
が両親から十分に愛され、守られていると感じているかどうか。子どもが求めていることが、
求めている時に与えられているのかどうか。
「かいて」と子どもが言うのは、「自分をもっと見て」とか、「もっと手をかけて」と言うメッセージ
なのかもしれません。あるいは子ども自身の欲求には関わりなく、一方的に親から与えられ
るような関係になっていると、親をコントロールする手段としてかゆみが用いられることもある
でしょう。
常に子どもの欲求を完璧に満たしましょう、と言っているのではありません。たとえば英国の
精神分析家のウィニコットは、「ほどよい母親」(good enough mother)を強調しました。妊娠
から出産、そして養育の過程の中で、最初のうち母親は子どもの欲求を正確にくみ取って満
たしますが、だんだんに失敗が出てきます。
子どもが欲求不満の怒りをぶつけても母親が報復しなければ、子どもの心の中に衝動を抱
えるゆとりや、母親への信頼が生まれてくる、とウィニコットは考えたようです。つまり子育て
に必要なのは育児書にある知識よりは、母親が子育てを楽しめるようなゆとりであり、それ
は母親の環境(夫などの家族、経済など)によっても制約されているのです。
●「かわいそう」は止めよう
アトピーの子どもは、よく周りの人から「かわいそう」という言葉をかけられます。スーパーで
買い物をしていても「あら、アトピーね、かわいそうね」なんて声をかけてくるおばさんだって
います。かきむしっている姿を見たり、ひどい湿疹を目の当たりにすると、親もかわいそうと
思うことはあります。
でも「かわいそう」と周りが声をかけたり、「かわいそう」という目で子どもを見ることは、決し
て良いことだとは思いません。そのような同情的な眼差しを子どもが取り入れてしまうと、自
分のことを自分でかわいそうと思うようになるのではないかと、私は推測するのです。
場合によっては、アトピーが特権を得るための切り札に使われることもあります。「眠れない
から、学校に行けない」と言われればそうなのかも知れないのですが、そうでないのかも知
れないのです。アトピーとは関係なく友だちを作るのが難しかったり、あるいは皮疹を見られ
ることを苦にしているのかもしれません。
アトピーがあることは、一つの不幸かもしれません。「ある」よりは、「ない」方が良いのです
から。しかし配られたカードがどうであってもゲームは続けなくてはならないし、どうせだった
らそのゲームを楽しんだ方が良いに決まっています。ましてカードを配った人の責任を問うて
も、どうにもなりません。
カウンセリングの訓練の中で、「同情と共感は違う」と強調されることがよくあります。同情す
るのではなくて、共感を伝えるのがカウンセラーの重要な役割であるからです。「自分をかわ
いそうだとは思っていないアトピーの子ども」(たいていはそうだと思いますが)に「かわいそう」
と言うのは、同情であって共感ではありません。
共感はその人の口から発せられても、自然な言葉です。ですから「とっても大変ね」とか「か
ゆいのは嫌だね」など、相手が感じているように自分も感じることができた時には、共感的な
言葉になり得るのでしょう。同情ではなく、共感が相手の心に届いて元気づけるのです。
5.高齢者のアトピー
●高齢者でもアトピーに?
アトピー性皮膚炎は、どちらかと言えば「子どもの病気」と認識
されてきました。しかし50代や70代でもアトピーになって、入院が
必要なほどひどくなってしまう方がいるのです。若い時からのアト
ピーが治らないのではなくて、年を取ってから発症します。以下に
述べるのは、実際のケースを参考にして私が作った物語です。
●道代さんのお話
道代さんは72才の主婦です。夫は15年前に亡くなっており、息子
の俊夫さんの家族(夫婦と孫二人)と同居しています。道代さんが
子どもの頃、お父さんは学校の先生をしていました。お母さんから
は「お父さんに恥をかかせないように、みっともないことは言わな
いように」としつけられてきました。そのせいかどうか「言いたい
ことがあっても、我慢してしまう性分」になってしまいました。
道代さんの嫁ぎ先は、何代も続く造り酒屋でした。義父は穏やか
で優しい人でしたが、お姑さんは厳しい人で朝から晩まで立居振舞
を見張られて、至らない所があるとお小言が飛んできました。やは
り厳しい母親に育てられた道代さんは、文句も言わずに忙しく働い
て家事や育児もそつなくこなし、近所でも評判のお嫁さんでした。
夫の一郎さんはなかなかのアイデアマンで、新しい趣向の酒を考
えて販売量を伸ばしていきました。しかし道代さんが57才の時に、
くも膜下出血で倒れ、帰らぬ人となりました。道代さんは夫が拡大
した事業を引き継いで、会社の経営の一線に立ってきました。大手
の酒造メーカーで経験を積んだ、長男の俊夫さんが帰ってきて家の
仕事をするようになり、綾子さんと結婚して孫も出来ました。70代
に入ってからは会社の仕事を退き、ほっと一息つけるような心境に
なりました。
ところが若い頃には何でもなかった皮膚が、痒くてどうしようも
なくなって掻きむしるようになりました。どちらかと言えば肌がで
カサカサしやすかったので、老人性の掻痒症かと思っていたのです
が、皮膚科を受診したらアトピーと診断されました。
「先生、孫の同級生でアトピーのお子さんがいらっしゃるとか、
よく聞くんですが、アトピーは子どもの病気ではないのですか」
「いや、この頃はそういうわけでもないんですよ。まあ、しかし、
よく掻いたもんですなあ。何かストレスでも、あるんじゃないです
か。お嫁さんとは、うまく行っていますか」
「ええ、お嫁さんはとても良い人だし、うまく行っています。私
のことは大事にしてくれるし、ストレスって言われても、ちょっと
思い浮かばないんですよ……」
道代さんの言う通り、綾子さんは良くしてくれます。茶飲み話に
嫁の悪口をする人がいても、「あら、うちの綾子さんはそんなこと
はないわよ。若いけど、良くできたお嫁さんでねえ……」と自然に
言葉が出て来ます。家業は俊夫さんが継いでしっかりやってくれて
いるし、孫は元気に成長しているし、趣味の陶芸や海外旅行も楽し
んでいて、何一つ不満のない生活のように思えるのです。言いたい
ことを言えずに我慢することは多いと感じますが、まさかそんなこ
とでひどい皮膚病になるとも思えません。
●自覚されないストレス
「あなたには、どんなストレスがありますか」と聞かれて、例え
ば「嫌な上司がいる」とか、「受験勉強が嫌い」とか、「自分には
〜のストレスがある」と答えられる人は多いでしょう。しかしどん
なに辛いことであっても、「自覚しているストレス」は「わけのわ
からない苦しみは生まない」のです。アトピーから回復するには、
症状を対症療法で落ち着かせることも大事ですが、どのようなスト
レスが発症や経過に影響しているかを調べていくことも大事です。
さて、道代さんの話に戻りましょう。彼女には自覚していないス
トレスが、沢山あったのです。皮膚科医に勧められたカウンセリン
グで、少しずつ自分の気持に注意が向くようになり、言葉に出来る
ようになっていきました。それは、以下のようなことでした。
道代さんが会社の中心になって働いている間は、皆から一目置か
れていました。周りの人たちが、道代さんの気持を汲み取ってくれ
ていたのです。だから「言いたいことを言えない」のは、それほど
苦痛を生まなかったのです。しかし一線を退いてからは、自分から
主張しなくてはいけない立場になりました。それにバリバリ働くこ
とでうっぷんを晴らすというやり方は、もうできないのです。綾子
さんがことあるごとに「お母さんは無理しないで下さいね」と言っ
てくれるのも、邪魔者扱いされているように感じてしまいます。
夫の一郎さんが亡くなってから、それまで知らん顔をしていた一
郎さんの兄弟が、会社のことであれこれ口を出してきたことも思い
出すようになりました。義姉は「女に社長が勤まるわけがない。借
金を作らないうちに解散した方が良い」と言い、義弟は「俊夫君は
大手のメーカーで研究員になれたのだから、もったいない。自分の
息子に跡を継がせた方が良いのではないか」と言って来ました。道
代さんは二人の顔も見るのも嫌になりましたが、言い分をぐっと呑
み込んで受け流して来ました。その時の口惜しさを思い出しては、
皮膚をかきむしっていました。
また「家族に迷惑をかけてはいけない」と、ボロボロ落ちた皮膚
を掃除して回ったり、皮膚の付いた自分の下着を手洗いしたり、お
風呂に最後に入る生活を続けたことも、良くありませんでした。た
だでさえかゆみで睡眠不足気味なのに、すっかりサイクルがおかし
くなって昼夜逆転の生活になっていたのです。そうした「だらしな
い」生活を送っていること自体、道代さんには耐えがたいことでし
た。このままぼけてしまうのではないか、と真剣に悩み、落ち込ん
でしまいました。
道代さんがこのような話ができるようになるには、時間がかかり
ました。他人が聞いたら「それは、大変でしたね」とうなづくよう
な話なのですが、道代さんにとっては「みっともない」話だったの
です。しかし思い切って打ち明けてみると、気持が少し晴れたよう
な感じがして、不思議なことに皮疹やかゆみまで軽くなって行った
のでした。
●元気過ぎるとアトピーに?
私の経験では、高齢のアトピー患者さんは年令よりも若々しくて、
エネルギッシュな人が多いように思います。元気過ぎるくらい、元
気なのです。80才を過ぎているのに遠方から単身で入院した男性、
90才近くても毎日30分のストレッチ体操に参加していた女性、70代
でピアノを習い始めた女性……、と本当に元気な人たちでした。
もちろん、元気なのはけっこうなことです。
ただ、老年期は元気にバリバリやっているだけでは、乗り越えて
いくのは難しいとも言えるのです。それはどうあがいてみても、仕
事や人とのつながり、自らの健康や生命など、さまざまなものを失
くしていく年代だからです。
「失っていく」体験を受け容れて、時には落ち込みもして、それ
でも残された人生を充実させて行こう、と言う境地に至るには、そ
れなりの成熟が必要なのでしょう。老年期を迎える人が我慢一辺倒
の生き方や、お金やモノで気持を満たす生き方、優勝劣敗の価値観
などを続けて行くと、いつかは無理が生じて来るように思います。
「無宗教」の人が多いと言われている日本人には、特に問題になる
ことなのかもしれません。
6.アトピーと臨床動作法
●臨床動作法とは
心理療法には色々な学派や技法がありますが、その多くは外国か
ら入ってきたものです。日本で生まれた心理療法の一つに、臨床動
作法があります。私はここ5年ほど、この臨床動作法を学び、実践
してきました。「アトピーが跡形もなくきれいになる」とまでは期
待できませんが、心身が落ち着いて普通の生活を送れるようになる
には、ずいぶん役に立って来たように思います。
ここでは私が皮膚科医向けの雑誌に書いた論文から、「動作療法
とは」の項をご紹介します。この時は「動作療法」と称していまし
たが、「臨床動作法」と同じと考えていただいてけっこうです。
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動作療法は成瀬悟策が創始した脳性マヒ児への動作訓練から、心
理療法として分化し発展したものと言える。これまで「臨床動作法」
と称されて来たが、本稿では成瀬の著書「動作療法」にならってい
る。なお動作訓練からは動作療法の他に、高齢者への援助、スポー
ツ選手のメンタルトレーニング、学校でのストレス・マネージメン
トなどに応用分野が広がっている。
心理療法の大半は言葉を媒介にするが、動作療法においては動作
体験を媒介にする。動作体験を一言で表現するならば、「自分の身
体が〜のように[動かせる・動かせない・動く・動かない]感じ」、
であろうか。この「〜」は、動作課題に取り組む過程の中で出てく
る。
例えば「肩開き」は、肩甲関節を中心点にして、肩甲骨を円を描
くように後方に動かす課題である。単純な動作のように思われるが、
いざやってみると「動かせない」感じに直面する。また自分では
「動かせる」ように感じても、正しいコースから外れて「動く」こ
ともあるし、頚が突っ張ったり背中が反ったりして動かないはずの
部位が「動く」こともある。
治療者の役割はこのような動作体験に注意を向けさせ、患者が自
分の身体に働きかけて動作体験が変っていくように援助することで
ある。この際に肩に手を当てることで、動きや緊張を感じ取ったり、
動かす方向を示すのが容易になる。正確に動かせない場合は、動か
す部位が不当に緊張していたり、動かさないで良いはずの部位が随
伴して緊張していたりするので、このような緊張を弛めるように援
助する。なお援助の作法は定められており、十分な研修を積んで修
得する必要がある。
動作療法の導入にあたっては、治療者が何をどうしようとするの
か焦点を絞ることが重要と考えている。例えば非常に緊張しやすく、
帰宅してほっとするとかゆみが噴出する人には、「緊張しないで気
楽にやっていける」ことが目標になるだろう。また皮疹が顔に出る
と人目が苦になる人には、「外野を気にせず自分に集中できる」こ
とが目標になるかもしれない。
その人の生きづらさ(話にも、姿勢や動作にも現れる)が改善さ
れると、結果的にアトピーの軽快が期待できるのであって、漠然と
取り組んでも効果は薄いと思われる。したがって患者がどのような
生活体験をしているのか、どのような動作体験を必要としているの
かを、見たてた上で取り組むことが必要になる。
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(青山正紀:成人アトピーの心理と動作療法
Monthly Book Derma, 58,45〜48,2002 より引用)
●毎日新聞岡山版の記事
次に2001年2月17日付の毎日新聞岡山版の記事を紹介します。私
には記者さんから問い合わせがあり、電話でお話しをしました。文
中、私も登場します。
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アトピー治療の現場C
臨床動作法 心身のリラックス重要
薬との併用で症状軽く
国立岡山病院(岡山市南方2)皮層科の西原修美医師は、ストレ
スなど心の問題からかゆみを訴える患者への治療の一環として、臨
床動作法を取り入れている。
動作法はアトビー性皮膚炎を直接治すものではないが、体の中の
筋肉にかかった無理な緊張状態を和らげ、正しい姿勢や落ち着いた
心を取り戻すことで、ストレスから皮膚をかきむしるという悪循環
を断ち切ることができると考えられている。臨床結果の統計はない
が、漢方薬の服用やステロイド外用剤などとの併用で症状が軽くな
ったアトピー患者の報告例もあり、注目されている。【武井澄人】
西原医師が行っている動作法の指導現場に立ち会った。患者は小
学枚1年生の男児(7)。4歳になって間もなくひじの裏にアトビ
ー性皮膚炎の症状が現れ、5歳のころ背中や腹などに広がった。発
作的に泣きだしたり、診察中いすにずっと座り続けられないなど落
ち着きがないことなどから、西原医師の勧めで1999年9月から月2
回、動作法の指導を受けている。
この日は、西原医師が「肩上げ」と呼んでいるリラックス法の練
習だった。姿勢を正していすに座り、腕を両わきにだらりと下げた
まま、肩を耳の近くまで時間をかけて持ち上げ、さらにゆっくりと
下げていく。手先がしびれたような感覚になれば、力が抜けてリラ
ックスできている証拠という。
マットの上ではしゃぎ回る男児と”格闘”の末ようやく座らせ、
西原医師が男児の背後につく。マットの外で母親(30)が見守る中、
「お兄さんだからできるよね」などと声をかけながら両腕を持って
介助すると、肩の上げ下げを4〜5回と繰り返すうちに、騒がしか
った男児が静かになった。
正しい姿勢でじっと動かず、約7分間。「はい、よくできたね」
と両肩をボンとたたくと、男児ははにかんだように笑った。通常の
診察の合間をぬっての指導に、西原医師は「子供との精神力の勝負
ですね」と息をついた。
動作法はもともと、運動障害のある脳怯まひ患者の機能回役を目
的に、40年ほど前から導入された。脳性まひ患者は無意識に体の筋
肉が緊張状態になって硬直し、自分の意志通りに動かせない場合が
多いため、基本的にトレーナーが介助しながら、動かしたい部位の
筋肉を意図的に緊張させたり弛緩させたりを繰り返して、筋肉がリ
ラックスした状態が実感できるよう訓練する。
その後の研究で、動作法によって自閉症や落ち着きのなさなどが
改善された例も報告されるようになるなど、応用範囲は徐々に拡大。
アトビー性皮膚炎の患者にも肩撮りや頭痛、腰痛などの筋肉の不当
な緊張状態などが見いだされるため、動作法を治療に導入する糸口
になった。
西原医師が動作法に出会ったのは、99年2月の皮膚科心身医学研
究会。既に、98年ごろから、アトピー患者の治療の一部に動作法を
取り入れていた岩手県石鳥谷町の皮膚科「星の丘クリニック」(岡
部俊一院長)の臨床心理士、青山正紀さん(41)の実践報告だった。
同クリニックで青年期のアトビー患者を中心に心理療法にあたっ
てきた青山さんは、患者が怒りや悲しみといった感情をうまく言葉
で表現できず、皮膚をかきむしる行為によって発散しているのでは
ないかと考え、入院患者を中心に、4年間で50人以上に動作法を実
施。中でも、同研究会で報告した21歳の女性患者の症例は、動作法
が症状の改善を促す一つのきっかけとして、注目を浴びた。
ステロイド離脱に失敗したその女性は、入院前数ヶ月月問はうつ
状態で引きこもりがちになり、症状も腕が痛くて上げられなくなる
ほど悪化。家族の介獲がなければ生活が成り立たないほど追い込ま
れた。約3カ月間、計10回ほどのセッションの結果、猫背だった姿
勢は改善され、考え方も前向きに変わっていた。
また、ストレス環境から離れての療養生活という好条件はあるも
のの、漢方の飲み薬やステロイド外用剤の併用などもうまくいき、
入院時にささくれ立っていた肌は退院時には正常に近い状態になっ
た。かきむしって症状を悪化させることもほとんどなくなったとい
う。青山さんは「絶えず周囲が気になって物事に集中できなかった
のが、動作法によって自分を変える体験ができたのではないか」と
話した。
西原医師は青山さんの報告などを参考に、子供の発達の度合いな
どに応じて、目標をクリアする喜びを与えられるよう段階的なプロ
グラムを考え、これまで4〜5歳児を中心に約10人に動作法を教え
てきた。
男児の場合は、初診時にはまゆ毛が抜け落ち、髪の毛の中にはか
さぶたができるほど症状がひどく、かゆみで眠れず3時間ごとに目
覚める状態だった。動作法の最初の課題として取り入れた腹式呼吸
の練習でも、最初のころは頭をかきむしったり、足をバタバタさせ
たりしたという。現在はリラックスし過ぎてあくびすることもある
くらいといい、肌の症状も落ち着き、夜中に目が覚めることもなく
なった。男児も動作法の練習を「たいそうののじかん」と呼んで、
心待ちにするまでになっているという。
ただ注意か必要なのは、動作法を実践しさえすれば症状が必ず改
善するというわけではない。ステロイドなどの外用薬の使用やアレ
ルゲンの除去、スキンケアなどあらゆる方法を組み合わせ、最適な
治療法を見つけていくのが重要という。西原医師も青山さんも「動
作法でアトピーを直接治せるわけではない。あくまでも治療法の一
つ」と口をそろえる。
さらに西原医師は「動作法自体は薬を使わないので、副作用を心
配する人を含めて多くの患者に受け入れられるのでは」とする一方、
母親の精神状態が子供の症状に影響を与えるケースが少なくないこ
とから、母と子を一体としてサポートすることも重要と強調。
「例えば、前回の診察に比べて子供の症状がよくなっていたら『お
母さんもよくがんばったね』とほめて、母親もリラックスできるよ
う心掛けています」と話した。 (おわり)
7.アトピーとADHD
ADHDとはAttention-Deficit/Hyperactivity Disorderの頭文
字を取った医学用語で、「注意欠陥・多動性障害」と訳されていま
す。1997年に出版された「のび太・ジャイアン症候群」(司馬理英
子著、主婦の友社)が注目されてから、日本でもよく知られるよう
になってきました。
これは生まれつきのもので、遺伝性があると言われています。脳
の覚醒水準にムラがあり、興味のあることには没頭できますが、そ
うでなければさっぱり集中できません。エジソンやアインシュタイ
ン、日本では織田信長や坂本竜馬などもADHDだったと言われて
います。その一方で、アメリカの囚人には非常な高率でADHDが
認められると言う研究もあります。
不注意優勢型(のび太タイプ)の人は気が散りやすく、忘れ物や
ポカだらけです。その一方で多動・衝動性優勢型(ジャイアンタイ
プ)の人は、落ち着きがなく衝動的に振るまいます。決してまれな
現象ではなく、学校のクラスに一人はいる、と言われています。
アトピーとADHDに直接のつながりはありませんが、アトピー
患者さんの中にはADHDと思われる人がしばしば見受けられます。
ADHDの人は手ごたえの感じられる体験を求めるのでアルコール
や麻薬に手を出しやすく、貧乏ゆすりや髪いじり、指しゃぶりなど
もよく見られますが、身体を掻くこともそのような行為になってい
るのかもしれません。また絶えず周囲から叱られたり、非難される
ので、それがストレスとなって掻き壊しにつながることも考えられ
ます。
治療は中枢神経を刺激して覚醒水準を上げる薬(リタリン)の他、
本人と親へのカウンセリングが中心になります。ADHDの治療を
受けてからアトピーの症状がすっかり落ち着いた人もいるので、疑
われる場合は専門的な医療機関(一部の小児科・精神科)を受診す
ることをお勧めします。
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